バトログ教授60歳のワークショップ
最近,外国に行きすぎじゃない,と思われる読者の方がおられるかもしれないが,気にしないで下さい.今回はスイスのチューリッヒへの短い旅である.2010年8月21日土曜日の昼に成田を発ち,帰国は26日木曜の朝.ほんとうに短い.目的はバトログ教授の60歳を祝うワークショップに参加することである.ヨーロッパではこのような機会にお弟子さんや関係する人たちが集い,研究会を開いてお祝いをするのはよくあることだ.バトログ教授は現在,チューリッヒ工科大学の物理学科におられるので,そこにみんなが集まることになる.月曜からの3日間の会議であるが,大学院入試の会議もあり,2日のみの参加となった.
さて,バトログ教授,最近仲がいいのでファーストネームでバートラムと呼ばせてもらおう.彼とのお付き合いに関しては以前に書いた(チューリッヒとバトログ教授)があるのでここでは触れない.研究面でも個人的にもいろいろとお世話になったので,60歳のお祝いと言われれば少々無理をしても参加したい.残念ながら,時期が悪かったせいもあって参加者は少ない.でも,それなりの有名な先生方が参加されるので楽しみにして,今,満員のAF275便にて成田を発ちました.幸い,プレミアムエコノミーとかいう,エコノミーとビジネスの中間(位置もまさしく中間)のクラスの上げてくれたので少々ラッキー.と言うわけで短い旅の短めの旅行記を始めましょう.
と思っていたらもう水曜日,帰りの飛行機の中です.あまりに短くて書いている暇がなかったので.というわけで思い出しながら土曜日に戻りましょう.チューリッヒに着いたのは午後8時だった.空港からホテルへのトラムの切符を買おうとして,ふと気がつく.そういえばスイスはユーロではなくフランだった.すっかり忘れていて成田でユーロしか買わなかった.困ったと思いながらも,自販機の隣に両替機があるのに気付く.ひょっとしてとユーロを入れるとちゃんとフランのコインが出てくる.さすがスイスである.ホテルにたどり着き,そのままベッドインしてなぜか爽快な気分で翌朝7時に目覚める.悪くない.久しぶりのチューリッヒの街の中心に足を伸ばし,湖から大通りを歩く.あいにく日曜なのでお店は閉まっているが,快晴の天気に大勢の人が散歩に繰り出していた.湖畔には10メートルのジャンプ台があり,子供達が勇気を出して飛び込む.楽しそうだ.この街を最初に歩いたのは24歳の時だった.友人とツェルマットにスキーに来たときのことです.懐かしい.昼前にホテルに戻ると,バートラムが奥さんのハーディーと一緒に来てくれる.3人で丘の上の素敵なレストランへ行く.昔の農家と牧場を改装した大きなレストランで,外のテーブルに坐り,キュウリの冷たいスープにラムとキノコのサラダを美味しく頂きました.レストランには大勢の家族連れが来ていて,食べ終わった子供達はあたりをウサギと一緒に走り回っている.とてものどかで,暑い暑い日本とは別世界.ちなみに今年のヨーロッパは直前まで異常に寒くて天気が悪かったようだが,どうも私のために思い直してくれたようだ.その後,チューリッヒ湖の周りをドライブし,反対側にフェリーで渡ってぐるっと一周してきました.バートラムに感謝.日曜の夕方にホテルで歓迎のパーティーが開かれる.
チューリッヒの街並み
翌日,朝からチューリッヒ工科大学(ETH)にてワークショップが始まる.かつてのベル研の黄金時代を築いた人達が並ぶ.プリンストン大学のBob Cavaから始まり,Maurice Riceに,ドレスデンからSteglichへと続く.皆さん,昔の思い出話を混ぜながら,最近の研究成果について熱く語られていました.日本からはAISTの長谷川さんともうすぐスタンフォードに行ってしまうHarold Hwangが来ている.長谷川さんは2001年頃にバートラムのポスドクをされており.ハロルドはベル研時代の学生だった.皆さんのバートラムとの深い繋がりに比べて,私は明らかに異端である.知り合ったのは2004年の秋にバルセロナで開かれた小さな会議であり,そこで話したパイロクロア超伝導に彼が興味を持ってくれて,競争相手になった.お互いに物質屋なので,共同研究はやりにくく,代わりに健全なサイエンスの競合をしたのでした.その時の学生さんもすでに会社に就職し,バートラムの研究も別なところに移っているが,それでも,一緒に同じ物質を研究したのは大きな意味がある.もちろん,私と彼とはもう少し別なところで深く繋がっているのだが,話が長くなるのでやめておこう.
翌日,火曜日は午前中に会議があり,午後からエクスカーションでライン川の滝を見に行く.ライン川の穏やかなイメージとは異なり,なかなか迫力のある滝であった.すぐ近くまでボートに乗って行くことができ,見事にカメラ共々濡れてしまった.と思いきや,突然空が暗くなり,激しい雨が降り始め,みんなずぶ濡れになりながらバスまで歩くことにあいなりました.雨の中を歩くなんて久しぶりで実に新鮮だった.その後,中世の面影が残る小さな町(名前は忘れた.何回聞いても覚えられず)に立ち寄り,ワインテースティングを楽しむ.そのまま,近くのホテルの会場でバートラムの60歳を祝うバンケットとなる.皆さんのスピーチを聞いていると,高温超伝導の黄金時代が懐かしく思い出され,25年前にタイムスリップしたような気がしてくる.共通して,バートラムの人柄と研究に対する熱い思いが語られ,ハーディーの協力があってこそ,という感じに落とされるのでした.日本からは,長谷川さんと直前で来られなくなった竹谷先生の提案に私と高木さんも便乗させてもらって,恒例のちゃんちゃんこが送られる.バートラムはいたく気に入ったようで,その後ずっと着ておられた.外国でこういうパーティーに出席したのは初めてだが,実に心のこもったすばらしい会でした.バートラム,60歳の誕生日,おめでとう.
というわけで,水曜の朝の会議はスキップし,パリ経由で帰国となったわけだが,短いなりに楽しい一時であった.大きな収穫はバートラムの沢山の友人と知り合ったこと.私は60歳まで未だ10年あるので,この繋がりを活かして今後のいい研究につなげたいと思う.ところで,今回の会を仕切ったマンフレッドや高木氏も同じ歳である.10年後にみんなでどこかに集まってお祝いをするのも一興かと思う.それにしても,帰りの飛行機で食べたウサギちゃんは美味しかった.
2010年8月26日 Z