光キャリア注入(Photocarrier Injection: PCI)

最近われわれの研究室では光を使った面白い現象が見つかりました。これは近い将来、基礎研究のみならず応用研究にも重要なインパクトを与えるものと考えています。ここでは簡単な説明を聞いて下さい。

チタンを含む酸化物は3eV程度の大きなバンドギャップを有する半導体ですが、古くからその光活性が注目され多くの研究が行われてきました。われわれの研究室ではここ2−3年、チタン酸化物基板上に様々な遷移金属酸化物(TMO)薄膜を作製する研究を行ってきました。その結果、極めて良質な薄膜および基板とのヘテロ接合を作製できるようになりました。

さて、そこにチタン酸化物のバンド吸収端に相当するエネルギーをもつ紫外線を照射すると、下図のように、基板で生成した電子とホールの内、ホールのみが薄膜に流れ込むことが見つかりました。遷移金属酸化物はよく知られているようにホールを導入することによりその物性ががらりと変化します。例えば、銅酸化物の高温超伝導やマンガン酸化物の巨大磁気抵抗効果などの面白い現象はすべてドープされたホールによるものです。よって、この光キャリア注入は遷移金属酸化物の物性を光によって簡単にまたクリーンに制御できる可能性を示しています。現在、そのメカニズムと応用をひたすら研究しているところです。また、遷移金属酸化物のみならず、有機半導体薄膜においてもほぼ同じ現象が起こることがわかっています。

今後の発展にご期待あれ。

「固体物理」2004年第39巻4号p.211-224に解説を書きましたので読んでね。