ブダとペスト

 2010年の最後の外国はハンガリーのブダペストである。2006年に初めて訪れ、当時ブダペスト固体物理光学研究所におられたPatrik Fazekas教授と出会った。彼はこの業界では知らぬ人がいないAnderson教授のポスドクから始めて、RVBという不思議な状態を提案し、その後も多くの仕事をされた大変有名な方である。RVBとは、なんて誰も聞きたくないと思うのでやめておくが、とにかく偉い理論家であった。ひょんなことから彼を訪問する機会を得たが、直前に奥様を亡くされ、にもかかわらず大変親切にしていただいた。街中の温泉に連れて行ってくれたり、宮殿近くのカフェに坐って二人でスイーツを食べたのを思い出す(これはヴェネティア騒動の前)。しかし、その1年後にファゼカシュ教授もあの世に旅立たれた。今回の目的は彼の偉業を記念してブダペストで開かれるワークショップに参加することである。もちろん、彼とゆかりの深い人々が集まる会議であり、ほとんどが理論家である。なぜ私のような中途半端な実験屋が呼ばれたかというと、おそらく、最後に会った日本人だから、ということにしておこう。日本からは、理論家7人に私を数えて2人の実験家が参加する。

 さて、例のよってただ今、エールフランス中。しかも、でかいA380に初搭乗である。秋の連休の最中のためか見事に満員です。エコノミーでも少しは広いかと期待していたが以前とほとんど変わらない。コンピュータのソフトが少し変わったのとイヤフォン端子が画面の横に移動したことぐらいか。それと窓際の席には荷物入れが付いたみたい。もちろん新しくて綺麗だし、リクライニングも壊れてないが。エアフランスのA380 は1階前方がファーストで残りがエコノミー、2階は2/3がビジネスで残りがエコノミー。2階のエコノミーの前から2番目にいるが、はっきり言って、かなりがっかりです。トイレが2つしかなく、おまけに後方の配膳室の前で、狭いところにトイレ待ちと飲み物を取る人で大混雑。せっかく機体が大きくなったのだから、詰め込まずにゆったりとしたデザインにしようという発想が出ないものか。アジアを飛んでいる他の航空会社のA380は空飛ぶホテルと呼ばれているのに。ぐちぐち。

 この旅とは無関係だが、昨日は2年前に卒業した学生さんの結婚式がありました。なんと表参道のアニヴェルセルで。見事な商業主義と完璧な段取りに文句の付けようのない料理。何より、新郎新婦の心のこもったもてなしが心地よくすばらしい結婚式でした。お幸せに。

 ブダペストはドナウ川の左のブダと右のペストからなる街である。どっちが左だなどと細かいことは言わないように。参加者全員がブダ側のホテルブダペストに泊まる。このホテル、14階建ての円筒形をしていて見事なコミュニストホテルである。恐らく、昔はロシアから大勢の人が来てここに泊まったのだろう。ホテルの近くにも豪邸が建ち並び、かつてロシアの高級官僚が住んでいたらしい。ホテルの内装は質実剛健、悪くないのだが何となく暗い。巨大なホテルの割にはエレベーターが2つしかなく、観光バスでやってくる団体がやたら多いので朝は大混雑である。もっと混雑するのは朝食であり、あらゆる国の人でごった返すのには閉口した。

ブダペストホテル

 朝、ホテル前の登山電車に乗り、バスに乗り継いで研究所に向かう。そこには小さな研究用原子炉があるらしく、入るのに厳しいセキュリティーチェックがあった。冷戦時代には軍事目的の研究が行われていたのだろう。ファゼカシュ教授の後をカルロ・ペンツ氏が継ぎ、彼が今回の会議の中心的なオーガナイザーである。会議にはファゼカシュ教授の教え子や欧州の関係する偉い人達が50人ぐらい集まった。正直言って別世界の話が多かったが、まあ、参加して話をすることに意義がある。たぶん。私はカゴメの話をしたが、1週間前に浮かんだ妄想が大きく膨らみ、ここで特に日本の理論家と話をすることができて、なんだか辻褄が合ってきたような気がする。MY氏には根拠のない妄想と一笑されるが、科学には想像力も大事である。

 ハンガリーの通貨はフォリントである。100フォリントが42円。最近、円が強いおかげで物価の感覚は日本の半分から2/3ぐらいと安い。ユーロもある程度使えるがレートはよくない。土産にトカイワインとフォアグラを買ったが、買う場所を間違えて大損となる。頭にきているので書かないが。大きな収穫は街をぶらついているときに見つけた小さな小さなチョコレート屋さんで買ったチョコ。パリの某有名店のような品と味があるのに驚くほど安い。乞うご期待。

 ハンガリー料理と言えば、パプリカのたっぷり入ったスープのグアーシュとフォアグラか。今回よく食べたのは鹿とカモだが、まあ、あんなものだろう。特に書くことなし。魚も今一。でも、値段からすると十分に美味しい料理でした。ワインは辛口の白とトカイの甘いデザートワインが美味しかった。トカイワインは6ポイントから0までランクがあるようで、ポイントが多いほど高い。レストランで飲んだ4ポイントはとても美味しかったので、土産に買った6ポイントに期待しよう。

聖イシュトバーン大聖堂で中央に輝くイシュトバーンは初代ハンガリー国王である.

 ブダペスト空港にて、今回ずっと行動を共にしてきたHH氏とビールにワインを酌み交わす。すっかり酔っぱらって生まれて初めて空港のアナウンスで名前を呼ばれてしまった。乗り継ぎのパリではおまえの名前はキャンセル待ちリストだと言われ焦るが、JALとの共同運航便だったので、ただのPCの問題か。AFとJALの仲がうまくいってないのだろう。それにしても帰りの便も超満員。JALの団体旅行客と一緒に詰め込まれるのはかなわないので、もう二度と共同運航便には乗るまい。

 今回の短い旅行ではHH氏に大変お世話になりました。ここに感謝の意を表します。どこに行くにもよくわかっていらっしゃるので引っ付いていけばいいだけ。ありがたや。そのうちまたご一緒しましょう。じゃ、またの機会に。