ハノイは暑い

2010年7月13−18日

 前回の「ヴェネツィア再訪」も書き終えていないのに,また飛行機に乗っている.7月11日土曜の朝に帰国し,週末を死んだように寝て過ごした後,月曜に出勤,火曜日の11時半発のJALでハノイに向かっている.ちょっとやりすぎのような気もする(間違いなくそうだ)が,1年以上前にハノイに招待されたときには二つ返事でOKしてしまった.なにせベトナムは初めてなので.出席するのはオーストラリアで開かれる統計物理の国際会議の前にあるサテライト会議「The International Conference on Frustrated Spin Systems, Cold Atoms and Nanomaterials」である.学生の頃,統計物理なんて難しくてさっぱり理解できなかった奴が,その関係の国際会議で招待講演をするなんてお笑いである.というか,まったく赤面ものである.でも,まあ気にしないで行こう.ハノイの先週の気温は最高39℃,最低29℃であった.湿度80%以上.想像したくない数字である.ベトナムには興味あるがこんな季節に行くのはどう考えても快適とは言えない.まあ仕事です.今回の四方山話は全く気合いが入っていないのでどうなるか分からないが,面白いことがあったら書き進めましょう.それにしてもこの飛行機,空いている.後ろの方はがらがら.まあ,この時期にハノイに行く人は限られているだろうが,それにしてもJALは大丈夫でしょうか.素直にスカイチームに入ってくれればよかったのにね.JALの国際線のサービスはひどくなったとの文句も聞こえてくるが,この便は悪くない.ランチのオムライスも意外に美味しかったし.JALさん,頑張って立て直して下さい.何せ日本のフラグシップですから.

 初めてベトナムの大地に降り立つ.空から眺めた印象は水の中に生まれた町だ.到着前に雨が降ったそうで気温が一気に下がり,25℃と少し蒸し暑い程度だ.悪くない.日本からの参加者と合流し,主催者が手配してくれた車で会場兼宿泊地となるシェラトンホテルに向かう.ホテルまでは30kmとかなり遠く,先週までのヨーロッパとは次元の違う風景を眺めながら期待は膨らむ.雑多な人々の暮らしに水田を歩く牛,沢山のバイク.当たり前だが,イタリアにはない風景だ.一方,シェラトンはもちろんどこにあってもシェラトンで高級である.何でこんなお金のかかるところで会議をやるのか(できるのか)理解に苦しむ.日本では不可能だ.会議の主催者はベトナム出身でフランスで仕事をした(している)理論家達である.

 ホテルで一服した後,近くを歩く.ホテルは町の中心から車で15分ぐらい離れた紅河と西湖のほとりにある.ホテル前の通りは狭いが交通量は多く,はねられないように注意要.一歩ホテルを出ると庶民の生活が間近にあって面白い.怪しい食べ物屋やカフェに豪華な門構えのレストランが混在し,その間をすごい数のバイクが疾走する.湖では,どうやって行ったのか,10メートルぐらい岸から離れたところにぽつんと人が立って釣りをしている.日本人5人でホテルに紹介してもらったベトナム料理店に出かける.そんなに高くないと言われたが店構えも内装も極めて豪華であり,結局一人40ドルという,ベトナムとしては超高級なディナーとなった.しかし,生春巻きも何かのサラダもソフトシェルクラブもチャーハンも焼きマンゴーも,どれも大満足であった.悪くない.イタリアンよりもこっちの方がいいかも.結構,書くことが一杯ありそうです.

ハノイシェラトンホテルと釣り人

翌日,7月14日水曜日に会議が始まる.外は暑いが中は寒い.昨晩,夜中の1時に目が覚めて眠れなくなった.週末に帰国してから月曜は忙しかったので気がつかなかったが完全に時差ぼけである.会議の参加者は50-60人程度だろうか.たぶんぼく以外は全員理論である.最初のトークはRNAの折りたたみの話.勿論理解できない.次にカリフォルニアのBalentsがフラストレーション関係のレビューをする.午後もうとうとしながら寒い会場で凍えていた.夜は首都大の多々良氏が中心となりハノイの街に繰り出す.昨晩と違ってディープな物を食べたいとおっしゃる.ハノイの夕方はものすごい喧噪である.無数のバイクの流れとこれを蹴散らして走る車.その前をのんびりと進む自転車おやじや三角帽子のおばさん.まず困ったことに道路を横断できない.流れはほとんど切れることなく信号などめったにない.現地人の挙動を観察しながら,えいやっと切り込む.バイクは勿論止まろうとしないが,少なくともよけようとする.こつは一定の速度で歩き,相手に予測させること.決して走ったり,恐れて立ち止まったりしてはいけない.あうんの呼吸である.一端コツを覚えるとなかなか面白い.

夕食はベトナムレストランで

 道端では何やら訳の分からないものを売っている.子供用の小さな椅子に座って何やら食べている.適当なところを探しあぐね,多々良氏の鼻を頼りに一軒の混んだ店に腰を下ろす.小さな子供用の椅子が歩道に並んでいる.その上にはところどころ穴の空いたホースがぶら下がっていて,細かい霧を吹き出す.つまり冷房装置である.しかし,ちょっと量が多すぎて椅子も濡れる.頭も濡れる.とても蒸し暑い.周りを見回すと小さめのどんぶりでご飯の上に何かをのせて食べている.なんと英語のメニューがあって,シナモンポークなるものを頼むが,かすかにシナモンの香りのするはんぺんみたいなものが出てくる.はっきり言ってまずい.ご飯もうーむ.ビールを合わせて全部で200円ぐらい.昨日の4000円の20分の1である.中身からいってもまあそんなものだが.たぶん,もっとまともなものや安くて美味しいレストランもあるのだろうが今晩は失敗でした.でも,それなりの雰囲気を味わい満足だ.ちなみに皆さんあまり沢山の量を食べているように見えない.ベトナムの人々は皆スリムである.太った人をほとんど見かけない.特に女性は小柄でスタイルがよくて皆さん綺麗です.街をぶらつき,土産物屋でコブラがサソリのしっぽをくわえて瓶詰めされた代物を購入.大して交渉していないのに7ドルが5ドルになった.面白い.

ベトナムで家族をもつとこんな感じか

 会議二日目.午前中に40分トークをこなし,午後には座長がある.どちらも無難にこなして夜はGala dinnerとなる.ホテルの会場で和やかな雰囲気に日本人の輪で盛り上がる.明日午後早めに会議は終わるので,その後どこへ行くとか,明後日土曜日の出発は夜中の23:30なので,ちょっと足を伸ばして世界遺産のハロン湾ツアーに行こうかと言うことになる.が,夜中に体調が悪くなり一気にしぼむ.昨日,夜のハノイの街を探検してから,あまり食べていないにもかかわらず血糖値が急上昇してびっくりした.今日一日も高めだったので,晩はインスリンを多めに打ったところ,急降下.胃が重く微熱もあって夜中にはまた急上昇とジェットコースター並となる.3年前以来,最悪の体調で一晩悶々として過ごした.考えられる理由.長旅の疲れがどっと出た.会場が余りに寒く風邪気味.昨晩の怪しい食べ物のせい.特におなかはこわしていないので,やはり長旅の疲れだろうか.

 朝,風呂につかってようやく少し元気が出てくる.と,配達された新聞に何やら天気図があり,右下から左上に輪が広がっている.記事を読むと,今年最初の台風がなんと明日ハノイを直撃するそうだ.なんだ,そりゃ,ハロン湾どころか帰りの飛行機だって危ういかもしれない.どうなることやら.お陰で,残りのハノイはしっかり仕事に集中できそうな気がしてきた.食欲も全くないしね.朝飯も食べる気にもならない.土曜のハロン湾ツアーはすべてキャンセルになったようだ.いずれにせよ,行く元気はなかったので同じことだが.午前中のトークを聞いて,また気分が悪くなったが,夕方まで熟睡して,ちょっと元気に.夕方,雨が降り始める.昼飯抜きだったので意を決して最初に行ったレストランへ1人で行き,カニとアスパラガスのスープに生春巻きとパイナップルに詰められたチャーハンを美味しく食べた.半分復活.

 土曜日,本日帰国です.朝から風は強いが晴れている.8時から街を歩き始める.いきなり道に迷っていたら,なんと,前からBalentsが歩いてくる.あちこちでよく会う奴だ.どこに行くのかと聞かれて,この寺だと地図を指すと方向が逆だとおっしゃる.確かに.一緒に寺を回り,そこで見失い,また1人で歩き出す.土曜だというのになんでこんなにバイクが多いのだろう.相変わらずのクラクションの騒音に頭が痛くなる.また道に迷いながらもなんとか旧市街に辿り着き,地球の歩き方にのっていたお店に入って,フォー・ボーなるものを食す.小ぶりのハンバーグと焼き肉がたっぷり入ったスープに別皿からお米の麺を浸して食べる.他に野菜,というか,かなり強烈なハーブ系の葉っぱが山盛りで付いてくる.まあ,悪くない.しめて,たったの200円です.本には絶賛してあったが,もう一度食べたいかと聞かれたらノー.3倍払っても近所のラーメン屋を選ぶ.昼過ぎに雨が降り出しホテルに戻る.すでにチェックアウトしているので夜中までの居場所の確保に困ると心配だったが,さすがシェラトン,プールやフィットネスクラブをご自由にとおっしゃる(ちゃんとホテルの案内を読むと書いてあるが,読まない人にはわからない).誰もいない雨のプールで泳ぎ,ジャグジーで体を温めてシャワーを浴びたらすっかり生き返る.

 ということで,なぜかホテル近くのイタリアンカフェでエスプレッソを飲みながら書いています.今,3時半なのでホテルを出発するまで未だ5時間もある.店はがらがらだが,欧米人ばかりが集まってくる.外のテーブルに太ったおやじが二人坐る.二人ともオレンジ色のシャツを着ていて,窓越しにこっちに向かって手を挙げ,にやっと笑う.ぼくもオレンジを着ているので.ここは欧米人の溜まり場らしい.オレンジの1人は店の女の子と妙に仲が良さそうだ.出発前に例のレストランで3度目の食事をする.もちろん店の人は覚えていて同じ席に案内してくれる.今晩の目玉はイカと青パパイヤのサラダ.約1000円也.さて,4回目はあるだろうか.

 今回のハノイはなかなか刺激的で面白い旅でした.ヨーロッパとのギャップを実感し,世界地図上の新たな地域を開拓した.多々良さんがベトナム−日本の交流プログラムを立ち上げようかとまじめに考え始めたようで,今後もまた来る機会があるかもしれない.一昨日の朝飯時に,主催者の一人Diep教授と一緒になり話をした.35年前に終わった戦争のことや日本に文部省のプログラムで滞在された時のことを聞いた.ベトナムはまだ発展途上の国である.日本もそうであったように,まず,お金のかからない理論分野から優れた人材が出ている.会議には現在,東大の博士課程に留学している理論の学生さんも参加していたが,実に流暢な日本語を話していた.ベトナムの若くて優秀な人材を日本に招いて学ぶ機会を与えてあげることは重要であり,将来的に大きな意味のあることだと思う.多々良さん,是非,頑張って下さい.陰ながら応援しています.もちろん,ベトナムで会議をやるときには参加しますので,その節はよろしく.

 成田への飛行機は無事飛ぶようである.この旅は特にトラブルもなく収束しようとしている.今回のお話はこれにて失礼.前回は長すぎた.これぐらいがちょうどいい.Z