マヨルカ島と新たな旅立ち

 前回のチューリッヒの最後にふれたように今回はスペイン,バルセロナの南,地中海にに浮かぶ小さな島,マヨルカに行くことになりました.もちろん仕事で.2006年3月15日のお昼のエールフランス便で出発し,パリ,バルセロナと乗り継いでマヨルカ島の中心都市パルマデマヨルカに着く予定.残念ながら日本からスペインまでの直行便はない(昔はあったと思うが)ので,到着予定は午後11時半,20時間の長旅となりました.

 さて,この旅行記シリーズも回を重ねてマンネリ化してきましたね.前回のチューリッヒもパスしようと思いながら長々と書いてしまったが,結局,暇なんですね.でも,思わぬ人から,面白いですね,毎回読んでます,と言われたりするとうれしくなって相変わらずのことを書き連ねています.まあ,読む人も暇があるのだからいいか.

 後1時間でシャルルドゴールに着く.今回のエールフランスは,なんとビジネスクラスにアップグレードされました.混んでいたようで,もちろん,エコノミーの料金です.お陰様でとても快適.シートはフルフラットとまではいかないが,少なくとも前の席に足が届かない(ただ短いだけか).料理はとてもgood.以下に本日のコースメニューを.

ハムにメロン、コッパハム、スモークチキン、フレッシュサラダ
ツノガレイのソテー、ケッパー、ポテト、アスパラガス、ブロッコリー
特製チーズ
チョコレートタルトレット、新鮮なフルーツ

エコノミーに乗ると名前は立派でも中身はなんじゃこれと思うようなものばかり出てくるが,今回のはさすがにおフランス料理でした.特にツノガレイはなかなかいける.

 会議は翌日16日の木曜に始まる.しかし,まずはランチです.1時半から2時45分までランチタイム.ホテルのレストランでバイキングとなる.かなり立派なスペイン料理が並び,ワインも付いて結構.その後,1時間の休みがあって会議が始まったのは3時45分でした.私の話は2番目だったので準備をせねばと思いつつ,ランチのワインと時差ボケで眠くなり,部屋で熟睡していて目覚まし時計に起こされる.会場に行くと知り合いの顔がちらほら.今回の会議は主にヨーロッパの超伝導関係者の会議で,基礎から応用まで幅広く,ECのお金が絡んだ会議のようです.話をしないが偉い人(チューリッヒのRice 教授やドレスデンのSteglich教授など)が沢山来ていたのは驚きだが,主催者のMarezio教授の人徳でしょう.もちろん場所がマヨルカだったことも大きな理由です.Steglich教授は来るまで何の会議か知らず,来てみて驚いたと言っていました.でも,奥様と一緒に来られて65歳の誕生日を祝ったそうです.おめでとうございます.Rice教授も早めに来て奥様とレンタカーで島をまわって楽しんだそうです.うらやましい.

 マヨルカ島はヨーロッパの一大リゾートです.来てみて驚いたのは空港の大きさ.小さい島なのにバルセロナと同じくらいの大きさがある.パルマデマヨルカの街も小さい割には活気があって,海岸沿いにはリゾートホテルが建ち並んでいる.今はシーズンオフなので閑散としているが,夏にはヨーロッパ中から人が集まってきてごった返すそうです.今年は例年より寒いらしく,セーターが必要.でも,日が射すと暑いくらい.残念ながら日が射したのは初日のみで後は曇ってしまったが.

会議が開かれたホテル
リゾートの雰囲気

 会議の中日にホテルを抜け出して町に行く.町の中心に巨大なカテドラルと宮殿がある.特にカテドラルはヨーロッパの大都市にあるものに匹敵するほどの大きさでとても印象的でした.13世紀に作り始めて400年後に完成したそうな.バルセロナのサグラダファミリアみたいに気長なのです.このように大きなものを作ったのは,当時この島が貿易で潤っていたこととイスラムに対する最前線だったことが関係しているそうだが,歴史音痴の私には聞かないで.シーズンオフの平日だというのにカテドラルにはおじいちゃん,おばあちゃんの団体さんで混雑していた.

 会議は土曜日の夕方無事終わりました.はっきり言って後半は関係のない話ばかりでしたが,また会いましょう,しゃんしゃんと相成りました.

 日曜は午後の飛行機まで時間があるので,朝早くバスで出かける.この日は朝から快晴で日差しは強いが風は冷たい.町外れの丘の上にあるベルベル城に登り,マヨルカの町と湾を眺める.日曜なので海には沢山のヨットが浮かび,見事にリゾートの風景となった.ベルベル城の円形の城壁に入ると石の柱で囲まれた丸い空間があり,そのど真ん中に古い井戸がある.井戸を覗き込んで耳をすますと水滴の落ちる音が地下深くから響いてきた.その音を聞きながら,はるか昔ここにいた人々の声が聞こえたらなどと感傷に浸る.丘を降り地図を頼りにひたすら歩きミロ美術館を目指す.強い日差しと上り坂にくたびれ果てたころ,ようやく不思議な形の建物にたどり着く.ここにはミロのアトリエがあり,その隣に小さな美術館が建っている.規模が小さいのであまり期待してはいなかったが,ミロ独特の遊び心に振れて心が安まる.客は私一人.一枚の横長の絵が気に入り,それを眺めながら静かな時間を過ごす.独特の青をベースにした抽象的な絵で,バックの淡い青の他に強い青と,黒に赤,そして,1ヶ所だけ黄色に塗りつぶされている.明らかにその黄色がポイントに見え,何を言いたいのかは皆目理解し難いが,とにかく面白い.隣接するアトリエには所狭しとカンバスが並んでいた.面白かったのはその奥にある建物で,中の壁には落書きが一杯.どう見ても落書きで,僕にも書けそうだ.でも,あのミロが書いたのである.

パルマデマヨルカのカテドラルとベルベル城

 今,バルセロナ空港のロビーでビールを飲みながらこの文章をまとめている.まだ,2時間近く時間がある.パリでの乗り継ぎ時間は1時間.無事に乗り継げればよいのだが.

 さて,3月も終わりに近づき,助手の村岡氏と学生の米澤君が卒業することになりました.村岡氏には6年間,研究室のお守りと薄膜の仕事で随分頑張ってもらいました.光と薄膜を使った仕事は彼のオリジナルであり,一緒に良い仕事ができたと思います.今後の岡山での活躍を祈念しています.米澤君は最後まで怪しい動きをしていましたが,ちゃんと会社に行くようです.最後にISSP柏賞をもらうことになり,今週,授賞式があります.彼の発見したβパイロクロア酸化物超伝導体は意外なほど大きな発展を遂げつつあります.特にラットリングとその相転移,超伝導との関係など面白そうな話題に繋がっています.私にこうして外国からお呼びがかかるのもこれらの仕事のお陰です.彼の独特の個性が今後の会社での研究にも生かされて新たな境地を切り開くことを楽しみにしています.

 3月は大学の研究室にとって旅立ちの季節です.すでに卒業した花輪君,速水君もそれぞれの場所で頑張っているようです.村岡氏,米澤君も今後新しい世界で自分を試すことになると思いますが,気持ちを入れ替えて新たなチャレンジ精神で頑張ってもらいたいものです.遠くに近くに二人の活躍を見守りたいと思います.

2006年3月25日 Z