Topics
Topics
吉田紘行氏(NIMS)と山浦淳一氏(X線測定室)、および、当研究室のメンバーにより、擬カゴメ格子反強磁性体ボルボサイトにおいて、銅イオンの軌道が劇的に変化する構造相転移が見つかりました。2価の銅イオンは3d9の電子配置を持ち、1つの不対電子がx2-y2軌道(図中緑色)か3z2-r2軌道(紫色)のどちらかを選択して安定となります。この時、銅イオンを中心とする配位多面体(ここでは酸化物イオンの八面体)は異なる形に大きく歪みます(ヤーン・テラー歪み)。通常の結晶においては、よほど乱れが大きくない限り、ヤーン・テラー歪みは協調して起こり結晶の対称性を下げて構造相転移を引き起こします。つまり、1つの八面体の形状を変化させるには周りのすべての八面体にも協力してもらう必要があります。銅イオンの特徴はヤーン・テラー歪みによる安定化エネルギーが極めて大きいため、結晶の存在できる温度領域においてすでにヤーン・テラー歪みが起こってどちらか一方の軌道が選ばれていることです。
ボルボサイトは不思議な物質であり、高温では 図中右 のように2種類の軌道が混在しています。ところが室温付近で構造相転移を起こし、左図のようにCu1サイトの軌道が3z2-r2軌道からx2-y2軌道へと変化することがわかりました。この軌道スイッチングはCu1サイト周りの八面体の形状を大きく変化させます。われわれの知る限り、このような軌道変化を伴う相転移を示す銅化合物は他に例がありません。軌道スイッチングによって銅スピン間の超交換相互作用が変化すると予想されるため、フラストレーション格子の磁性という観点からも興味が持たれます。
詳細は以下の論文をご覧下さい。
H.Yoshida, J.-i. Yamaura, M. Isobe, Y. Okamoto, G. J. Nilsen, and Z. Hiroi: Nat Commun 3 (2012) 860.
カゴメ格子上の軌道スイッチング
2012/05/13