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日時:平成24年10月22日(月)午後1時 〜 10月23日(火)午後1時

場所:物性研究所6階セミナー室(本館A615室)


プログラムとアブストラクト


10月22日

座長 広井 善二

13:00 広井 善二  はじめに

13:05 石渡 晋太郎 東大物工 准教授

「層状4d, 5d遷移金属化合物における異常輸送現象と超伝導の探索」

 新しい熱電・超伝導材料の鉱脈を求めて層状構造を有する4d, 5d遷移金属化合物の物質開拓を行っている.これらは比較的電子相関が小さいために高い移動度をもつこと,また大きなスピン軌道相互作用により非自明なバンド構造を有することが期待される.本講演では,Ag, Mo, Irなどを主要元素として含む層状カルコゲナイドで見いだされた,新奇な磁気輸送特性,熱電特性,及び超伝導を紹介する.


13:40 植田 浩明 京大理 准教授

「フッ素を含む三次元フラストレート磁性体の開発」

 パイロクロアやスピネルに代表される三次元構造をもつフラストレート磁性体は,主に酸化物を中心に研究が行われている.一方,フッ化物においても,パイロクロア,変型パイロクロアおよびダブルペロブスカイトなどの構造をもつフラストレート磁性体が多く知られている.これらの系においては,スピンのフラストレーションと共に,軌道や電荷のフラストレーションや格子の不安定性などが存在し,複数の自由度の競合により,新規な相転移が期待できる.上記の三つの構造をもつフッ化物について,講演者が近年行ってきた研究を中心に,フッ化物の合成手法および相転移に関して発表する.


14:15 大串 研也 物性研 特任准教授

「反転対称性の破れた導電体の開拓」

 近年,強誘電体やマルチフェロイクスなど,反転対称性の破れた電子相の研究が活発になされているが,これらの電子相は電気的には絶縁体である.本講演では,結晶点群あるいは磁気点群において反転対称性が破れた金属を具体的に例示し,その電気・磁気・光学物性を論じる.


14:50 岡本 佳比古 物性研 助教

「ブリージングパイロクロア格子反強磁性体LiGaCr4O8とLiInCr4O8」

 正三角形を基本ユニットとするような,幾何学的にフラストレートした格子をもつ物質には,物質屋・合成屋の手の届く範囲に未知の電子相や新しい物理現象があると考え一貫して幾何学的フラストレート系の新物質開拓を行ってきた.研究会では,その最近の成果である新しいフラストレート磁性体LiGaCr4O8とLiInCr4O8を紹介する.両物質は,四面体サイトがLi+とGa3+/In3+の二種類のイオンで閃亜鉛型に秩序して占有されたAサイト秩序型のスピネル酸化物である.この秩序の影響で,局在S = 3/2スピンを担うCr3+イオンは通常のスピネル酸化 物にみられるようなパイロクロア格子ではなく,大小の正四面体が交互配置した"ブリージング"パイロクロア格子を組む.当日は,このブリージングが磁性に与える影響を中心として,両物質の構造と物性を議論する.


15:25  休憩


座長 陰山  洋

15:50 鬼丸 孝博 広島大 准教授

「4f2配位を持つPr金属間化合物における多極子自由度と多彩な基底状態」

 4f電子を2個持つ非クラマースPr3+イオン(J = 4)の点群が立方晶系の場合には,結晶場基底状態が磁気モーメントを持たない非磁性二重項となる可能性がある.この二重項では4f電子の多極子自由度が活性となるので,サイト間の多極子に働く相互作用や,局在した多極子と伝導電子やフォノンとの相互作用によってその縮退は解かれ,多彩な基底状態を形成する.

 立方晶PrPb3はTQ = 0.4 Kで電気四極子が交替的に空間整列する反強四極子(AFQ)秩序を示す[1].電気四極子の秩序構造は,磁場中での中性子回折実験により,非整合の長周期サイン波磁気構造と同定された[2].このようなサイン波構造は,4f電子が完全に局在している場合には許されないので,伝導電子による四極子の遮蔽効果(四極子近藤効果)が働いているのかもしれない.あるいは,この系の長周期で変調する四極子秩序が遍歴4f電子状態における四極子密度波である可能性もある.

 最近われわれは,非磁性二重項を結晶場基底状態に持つ新しい物質群の探索を目指し,新しいタイプのカゴ状物質群である立方晶PrT2Zn20 (T = Rh, Ir)に着目し,研究を進めてきた[3,4].ここで,Prは16個のZnに囲まれているため4f電子と伝導電子の混成チャンネルは多くなり,全体として混成効果が増強されることが予想される.T = Rh, Irの系の結晶場基底状態は非磁性二重項であり,それぞれTQ = 0.06 Kと0.11 KでAFQ秩序を示すことが明らかになった.さらに,TQ以下のTc = 0.06 Kと0.05 Kにおいてバルクの超伝導転移を確認された.AFQ秩序相内で超伝導状態が実現している初めての例であり,電気四極子と超伝導の相関に興味が持たれる.実際,TQでのエントロピーはT = RhとIrでそれぞれRln2の10%と20%程度であることから,TQ以下でも四極子揺らぎが残っていることが示唆される.もしそうだとすれば,四極子揺らぎが超伝導対の形成に関与している可能性が高い.

[1] P. Morin and D. Schmitt: Ferromagnetic Materials, ed. K. H. J. Buschow and E. P. Wohlfarth (Elsevier, Amsterdam, 1990) 5, 1.

[2] T. Onimaru et al., Phys. Rev. Lett. 94 (2005) 197201-1-4.

[3] T. Onimaru et al., J. Phys. Soc. Jpn. 79 (2010) 033704-1-4.

[4] T. Onimaru et al., Phys. Rev. Lett., 106 (2011) 177001-1-4.


16:25 片山 尚幸 名古屋大工 助教

「ペロブスカイト型チタン酸化物のd軌道の電子状態」

 遷移金属のd軌道の電子状態は結晶場の影響を大きく受けている.従って,遷移金属酸化物の示す興味深い物性を理解するには,遷移金属サイトにおける結晶場の状態を議論することが重要となる.本研究では,放射光X線を用いて調べた正確な原子座標データをもとに,周囲の配位子がもたらすポテンシャルから着目する遷移金属のd軌道の電子状態を明らかにする手法の開発を行っている.ターゲットとして磁性,軌道電子の状態が良く調べられているペロブスカイト型チタン酸化物RTiO3 (R = Y, Sm) を用い,チタンを取り囲む酸素の配位子場の計算を行った.RTiO3ではチタンのd電子の軌道秩序化に伴うヤンテラー歪が生じており,TiO6八面体は正八面体から歪んでいる.Rイオンの種類によって,磁気的な基底状態が異なることから,磁性と軌道の関係についても注目された系である.結晶場を正確に把握するため,正八面体からの歪をQ2 ~ Q6の歪モードに分解し,得られたパラメータを用いて軌道分裂と波動関数の導出を試みた.詳細は当日報告するが,現時点では共鳴X線散乱[1, 2]や偏極中性子回折[3]では異なる基底状態を示す波動関数に差が見られていなかったのに対し,系統的なモード計算から結晶場が分類できることが分かってきた.一方,結晶場の議論とは全く独立に実験的な価電子密度分布を引き出すことが出来れば,上記の構造物性の解釈と直接比較が可能となる.我々のグループではSPring-8で収集した高輝度で高い空間分解能のX線回折データを用いて,マキシマムエントロピー法(MEM)と多極子展開法を組み合わせた解析を行い,電子分布の直接観測の手法開発も行っている.当日はこの手法から求めた波動関数についても報告し,両者の比較を行う.

[1] H. Nakao et al.:Phys. Rev. B. 66, 184419 (2002)

[2] H. Ichikawa et al.:Physica B. 281, 482 (2000)

[3] J. Akimitsu et al.:J. Phys. Soc. Jpn. 70, 3052 (2001)


17:00 工藤 一貴 岡山大理 助教

「BaNi2As2における巨大な格子のソフト化と超伝導転移温度の増強 」

 格子がソフト化すると,しばしば高い転移温度Tcを持つ超伝導が出現する.例えば,CaC6やTeに圧力を印加すると,構造相転移に向けて格子がソフト化し,Tcが増大する.本研究では,ThCr2Si2型BaNi2As2にPをドープすると,正方晶から三斜晶への構造相転移が抑制され,その臨界点において格子が著しくソフト化し,Tcが0.6 Kから3.3 Kへ不連続に上昇することを示す[1].化学置換による格子のソフト化は,高Tcを得る有用な手段と言える.

[1] K. Kudo, M. Takasuga, Y. Okamoto, Z. Hiroi, and M. Nohara, Phys. Rev. Lett. 109, 097002 (2012).



17:35 齊藤 高志 京大化研 助教

「Aサイト秩序型ペロブスカイト構造を舞台とした物質・物性探索」

 Aサイト秩序型ペロブスカイトAA'3B4O12は,単純ペロブスカイトABO3におけるAサイトの一部にも遷移金属イオンを持つため,新規物性探索の舞台として魅力ある物質群である.我々はこれまで高圧合成法を用いて多様な物性を示すAサイト秩序型ペロブスカイトを合成してきた.最近,平面四配位A'サイトがCu2+やMn3+といったJahn-Teller活性種のみならずMn2+やMn+といった低価数Mnイオンでも占められ,これらがスピングラスや興味深い磁性を示すことを見出したので報告する.


19:00  懇親会


10月23日

座長  島川 祐一

9:00 櫻井 裕也 物材機構 主任研究員

「NaCr2O4の巨大磁気抵抗効果」

 カルシウムフェライト型構造をもつNaCr2O4を発見した.同構造はCrO6八面体の2重ルチル鎖(NaCrO2などの三角格子から2列取り出したもの)をもちフラストレーションと1次元性が期待できる.本物質は125Kで傾角反強磁性を示す絶縁体であるが,磁気転移点以下で顕著な負の磁気抵抗効果を示すことが分かった.反強磁性状態で起こる新しいタイプの磁気抵抗効果である.講演では,新しいタイプと言える理由を示した後,磁気相図の特徴,Ca置換系の奇妙な磁性などについて報告する.


9:35 セドリック タッセル 京大工 特任助教

Negative Thermal expansion of (Sr,Ca)FeO2 with FeO4 square plane

 SrFeO2 exhibits a tetragonal "infinite layer" (IL) structure composed of FeO4 square-planes [1]. The substitution of strontium by calcium, up to 80%, results in a linear decrease of the lattice. By further increasing the Ca/Sr ratio, a slight drop of the a-axis and an increase of the c-axis lengths are observed implying a different structure for the end member CaFeO2 [2]. In this structure, the infinite layers contain FeO4 units which distort from square-planes toward tetrahedra and rotate along the c-axis [3]. The study of the thermal evolution of the solid solution reveals a negative thermal expansion of the volume (NTE) induced by a large increase of the c-axis upon decreasing temperature. This behavior is remarkable given that both CaFeO2 and SrFeO2 exhibit conventional positive thermal expansion. Therefore, the observed NTE is intimately correlated with the nature of the solid solution. We will present our investigation of this behavior by the use of Rietveld refinement of neutron data, EXAFS of strontium and calcium and reverse Monte-Carlo studies.

[1] Y. Tsujimoto et al, Nature 450, 1062 (2007).

[2] C. Tassel et al, J. Am. Chem. Soc. 130 (12), 3764 -3765 (2008).

[3] C. Tassel et al, J. Am. Chem. Soc. 131 (1), 221–229 (2009).


10:10 東中 隆二 首都大理工 助教

「LnT2Al20 (Ln = Pr, Sm) における強相関電子物性」

 最近,カゴ状物質LnT2Al20において重い電子状態,量子臨界現象等の様々な強相関電子物性が見出されている.その中で,LnT2Al20のPr 系において非磁性二重項基底状態に起因した四極子近藤効果の実現が議論されており,また,Sm 系においては磁場に鈍感な相転移及び重い電子状態が観測されており複数のf 電子を持つ強相関電子系として注目を集めている.これらの系における我々の研究結果について発表させていただく.


10:45   休憩


座長  野原 実

11:10 矢島 健 京大工 博士研究員

「正方格子d1超伝導体BaTi2Pn2O (Pn = Sb, Bi) 」

 Na2Ti2As2Oをはじめとするチタンニクタイド酸化物は,Na層と[Ti2As2O]層が交互に積層したAnti-K2NiF4型構造をとる.この系は,銅酸化物超伝導体と同様に,Anti-CuO2平面であるTi2O平面を含む.また電子状態という観点からは,銅酸化物超伝導体のCu2+(d9)という電子状態に対し,Na2Ti2As2OにおいてはTi3+(d1)という電子状態をとることから,電子・ホールを逆にした対照的な系である.我々は,Na層の代わりにBa層を含む新規化合物,BaTi2Pn2O (Pn = Sb, Bi)の合成に成功した.いずれも金属的な挙動に加えTc = 1.2 K (Pn = Sb), Tc = 4.6 K (Pn = Bi)において超伝導転移を示したことから,銅酸化物との関係に興味が持たれる.本発表では,BaTi2Pn2Oの合成および詳細な物性について議論する.


11:45 山浦 淳一 物性研 助教

「5d遷移金属パイロクロアの合成と物性研究」

 5d遷移金属パイロクロアは,ラットリングと超伝導,結晶対称性と特徴的磁気構造,トンネル構造とプロトン伝導といった,構造と深く関連した興味深い物性を示す.講演では,同物質系における純良結晶育成法,Cd2Os2O7の金屬絶縁体転移と磁気構造の研究,ベータ型パイロクロア酸化物における超伝導,超プロトン伝導,といった話題について触れる.


12:20 和氣 剛 京大工 助教

「機械的特性と磁性を併せ持つ貫入型複金属化合物の探索」

 従来,貫入型炭化物,窒化物は機能性材料として注目されてきた.例えばWCは超 硬合金に用いられ切削工具として用いられ,またFe16N2はFeを超える飽和磁化を有し,希土類フリーの永久磁石材料として期待されている.貫入型複金属化合物は,それら機械的特性と磁性を併せ持つ可能性がある.我々は,機械的特性が注目されてきたイータカーバイド型化合物及びMAX相化合物において,磁気関連現象の探索を行なっている.当日はこれまでに得られた成果について報告する.


12:55   おわりに


*講演時間25分,討論時間10分

 

ISSP WS「強相関物質開発の最前線」プログラム 2

2012/09/24

 
 
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