国際会議の四方山話
国際会議の四方山話
2012年4月25日水曜日、フランクフルト経由でリヨンに飛び、グルノーブルに向かう予定であった。今年度最初の海外出張である。3月までポスドクであったヨーランがビームサイエンティストとして着任した中性子実験施設ILLに赴き、彼と一緒にカゴメ鉱物の実験をするために。さらに、卒業した小野坂君のサンプルもハンヌのところにあり、その実験も直前に行われるはずだった。4月初めに予定されていた原子炉運転開始は何らかのトラブルのために延期されていたが、幸いにも直前の今週月曜に今期の運転がスタートすることになっていた。
この実験予定は前々から決まっていたので、旅程を組んだのは1月である。今回初めてANAの787に乗ってみようと思い立ち、火曜日深夜、というか水曜日早朝1amの羽田出発を選択したのである。しかし、相変わらず物事は予定通りに進まない。月曜の夕方になってヨーランから不吉なメールが届く。原子炉の制御棒が規定の速度よりほんの少しだけゆっくり動くことが問題となっているとのこと。実験開始が遅れるかもというのである。まあ滞在は1週間もあるし、他にも論文を抱えているのでやることはあるとたかをくくっていたが、翌朝に原子炉の立ち上げ延期が決定されたとの正式なメールがやってきた。出発まであと20時間である。荷物はすでにパッキングされて部屋に転がっているし、中には土産の日本酒も。面倒臭いからこのまま行ってしまおうかとも一瞬考えたが、なにせオフィシャルな目的は中性子実験なのでそうもいかないと思い直し、出発10時間前に787をキャンセルしたのでした。意外だったが、キャンセル料は最安値のチケットにもかかわらず3万円とまあリーゾナブル。というわけで、787初体験はまぼろしと終わったのです。せっかく土産に買った酒も別の人に飲まれることになるだろう。
その日、夕方までしっかり仕事をして8時頃帰路に着いた。本来ならこの時間に羽田に向かい、3時間待って787に搭乗し、早朝にフランクフルトに着き、さらに3時間待ってリヨンに飛び、さらさらに1時間のバスを経てILLであった。しかし、そう考えるとゾッとする。昼の間にいろいろあって疲れた後にこの日程をこなすのは相当しんどい。この擬似体験からはもう787に乗る機会はないような気がする。ANAさん、成田から昼間に飛ばしてくれないかな〜。
今回の実験は、実は昨年夏にヘリウムとアルゴンガスを間違えるというとんでもないミスのため(誰かの)に途中でやめさせられた実験の再挑戦だった。またしても延期となり、再開は順調にいっても1ヶ月後である。今回の結果を合わせて6月にカナダで開かれるHFM2012会議で発表しようと考えていたヨーランには大きな誤算となってしまった。しかし、ヨーラン不運には何か宿命的なものを感じる。昨年の大地震から始まっていろいろあったからね。魔除けの御守りを送ってやろう。
というわけで、今回は出発前に旅行記が終わってしまいました。でも、お陰様で今、大変楽しい時を過ごしている。何だか1週間分の時間が降って湧いたような不思議な気がして。やりかけのデータ整理は進むし、論文直しもスラスラと(たぶん)。結局、外国行きを減らせば時間の余裕ができて研究も進むということか。たまにはこういうドタキャンも悪くないと思いつつ、今後の盛大な外国出張予定を想うのでありました。じゃ、また。 Z
まぼろしの787
2012年4月25日水曜日