国際会議の四方山話
国際会議の四方山話
2012年6月1日、ナイアガラの滝、ではなく、カナダのハミルトンにあるマクマスター大学を目指して飛行機中である。2年に一度開かれる国際会議Highly Frustrated Magnetism (HFM2012)に参加するために。2年前には米国のボルチモアで、4年前にはドイツのブラウンシュバイクで、さらに6年前には大阪で行われた由緒ある中規模会議である。日本からはいつも沢山の人が参加しており、今回も全参加者数は210人となった。うちの研究室からも山浦氏と修士2年の石川君が参加する。3月にグルノーブルに移ったヨーランもやってくるので再開が楽しみだ。
今回の特殊事情はサンタバーバラの理論家レオン・バレンツと一緒にプログラム委員長を仰せつかったことである。チェアマンはマクマスター大学のブルース・ゴーリンである。彼らと基調講演やら招待者をメールのやり取りのみで決めるのはかなりややこしく大変だったが、まあ、なんとか形になってほっとしている。主催者側なので自分の講演はなく、のんびり会議を楽しもうと思っていたら、一昨日になって会議の最後のサマリートークをしろと言われた。全く困ったものである。それならもっと早く言ってくれれば、前もって準備ができたものを。もちろん向こうで会議の話を聞いてその内容をまとめないといけないのだが、心の準備というものもある。こういうアドリブ的なトークは初めてなので果たしてうまくいくか心配だが、まあ適当にジョークを入れて煙に巻くべく努力します。
さて、ハミルトンは初めてだ。カナダの東側に行くのも初めて。米国との国境近くオンタリオ湖のほとりにある小さな町である。最寄りの大都市はトロント。しかし地理的に最も興味を惹かれるのはもちろんナイアガラの滝である。米国側のエリー湖からカナダ側のオンタリオ湖に流れ込む世界の七不思議の一つである。会議の中日にあるエクスカーションが楽しみだ。というわけで、別にナイアガラの滝を眺めながら会議をやるわけではありません(きっとうるさくて講演者の話も聞こえないだろう)。
さて、今はワシントンの空港でトロントへの乗り継ぎ便待ち中。出発が1時間半も遅れて暇つぶしに書いています。何でも飛行機が足りないようで、全くユナイテッドは怠慢だ。トークの準備をするには疲れすぎ(アメリカ東海岸は遠い)。前回と同様、こういうのを書くにはiPadが快適だ。最近、外国行きのドタキャンが頻発していて、実は今回も怪しい雰囲気が漂っていたのだが無事に来られてよかった。さて、どのようなことが待ち受けているか。なんて余裕のあるうちに書いてからいつまでたっても出発時間のアナウンスすらないままさらに2時間以上待たされて、午後3時にトロント空港に着く予定が9時になってしまった。日本はもう土曜の朝10時だから家を出てすでに27時間が過ぎた。おまけに外は大雨です。
会議の行われるマクマスター大学はトロントの西、車で1時間ぐらい離れた町ハミルトンにある。カナダではトロント大学、西海岸のバンクーバー大学に次いで3番目に大きな大学らしい。緑あふれるキャンパスと様々な施設、特にちゃんとしたカフェテリアと32種類のビールが飲めるオープンテラスのレストランは素晴らしい。アメリカの大学はほとんどアルコール禁だが、カナダは寛容である。Flying Monkeyというローカルビールがお気に入りとなる。宿泊は大学内の学生寮?で、質素な割には値段が高いが、まあ許せる範囲だ。朝の散歩ではリスが挨拶してくれるし、隣の森には鹿も住んでいるそうである。
日曜の朝からバスに1時間ゆられてウォータールーにある理論研究所に赴き、会議に付随して企画された一日講義に参加する。一応、各分野のシニア教授が学生やポスドクを相手に授業をする。ちゃんと準備している人もあればそうでない人もいる。
月曜朝から会議が始まる。今回はサマリートークのためにまじめに聞きつつ、発表スライドも作らねばならず大変忙しい。正直言ってこんなに真面目に講演を聞いたのは初めてだ。おまけにポスター賞の選考まで頼まれて、とほほである。というわけで今回の四方山話はいつになく真面目で面白くない。
唯一(でもないが)の息抜きは、もちろん、ナイアガラである。会議中日、水曜の午後に参加者の多くがバス2台に分乗して1時間ほどでナイアガラフォールズに到着。素晴らしい天気に恵まれ、ボートに乗って滝の飛沫を浴び、トンネルにもぐって滝を後ろから眺めることができた。さすがにナイアガラの滝は華厳の滝とはスケールが違う。すごい水量に圧倒されるが、あとで聞いた話によると、それでも水量は自然の状態の1/6で残りは水力発電に使っているらしい。それでも今の滝は1000年後にはずっと上流に移動していることだろう。自然の脅威である。晴れていても風向きによっては小雨状態で、美しい2重の虹を見られたのは幸運だった。滝を眺めながら飲むビールも格別で、生きていてよかったと思う瞬間である。その後、ワイナリーに行き、ブドウ畑に囲まれたテントでバンケットに移行する。酔っ払って、学生さんに混じってサッカーをやっているうちにいつのまにかバンケットは終わっていた。
翌日はカゴメの日で吉田紘行氏もパソコンのトラブルにもめげず立派に講演をした。夜にはコミッティー会議があり、主催者と主だった人たちが10人ほど集まって次回2年後のHFM2014をどこで開催するかを話し合った。結局、立候補は唯一イギリスだったのですんなりと決まる。場所はワーウィックかケンブリッジ、多分、前者になるのではと思う。今年のアメリカ物理学会ではフラストレーションが2番目に大きなテーマになったらしく、研究者人口は明らかに増えている。今後のHFM会議も恐らく活発なものになるだろう。ちなみに次次回2016年の開催地も議論されたが、最有力は日本か沖縄で、ブラジル、中国などの可能性もあるが、4年も先のことは誰にも分からない。このコミッティー会議が行われたのはマクマスター大学のファカルティークラブであった。中世風の立派な建物でハイレベルのレストランに洒落たバーではシングルモルトも飲める。主催者のブルースはいつもここにお昼を食べに来るらしい。実に羨ましい施設だ。日本の大学もこれぐらいのゆとりが欲しいものだ。ちなみにカナダの大学はすべて公立である。
最終日、もう講演を聞く余裕はなく、プレゼンファイル作りに励み、最後のサマリーセッションとなる。最初にレオンが理論のレヴューをし、その後に私が物質を、最後にブルースが実験を眺めて会議をまとめた。自分でいうのもなんだが、まあまあの出来だったと思う。若い頃に緊張してガチガチになっていた頃を思うと、なんと言うか、まあ歳をとって年季が入ったということだろう。会議がすべて終わり、これほどホッとしたのも久しぶりのことだ。開放感!昼飯に飲んだFlying Monkeyの美味しかったこと。皆さん、また2年後にイギリスで会いましょう。
金曜の昼に無事会議が終わった後、トロントに移動する。翌日のトロントーシカゴ便が朝8時と早いので空港に近い市内のホテルに泊まる。CNタワーに登り、460mの高さからトロントの街並みと広大なオンタリオ湖を眺めながらビールで乾杯。博物館で恐竜やマンモスの声に耳をすませ、タイレストランで美味しい食事を楽しみました。ちょっと驚いたのは博物館がディスコ(死語か)状態になっていたこと。大勢の人が集まって一杯飲みながら金曜の夜を楽しんでいた。トロントは大きな街だがアメリカの都会よりはるかに雰囲気がいい。
土曜の早朝4時に起きて空港に着くと乗る予定の便が違うと言われる。なんと予定より40分も早い別の便に変更になっていた。ANAからは全く連絡がなかったのに。危ない危ない。たまったメールを眺め、現実に戻されながら、再び雨となったトロントを後にした。いつものように、また再びこの街を訪れることはあるだろうかと思いながら。 Z
ナイアガラの滝を眺めながら
2012年6月15日金曜日