国際会議の四方山話
国際会議の四方山話
今回は全く書く気はなかった、というか、あまり国際会議ばかりに飛び廻っているのがバレバレなので書きたくなかったのだが、ちょっとした理由から帰国途中アンカレッジの上空辺りで書き始めた。時は平成22年7月30日のことである。目的地はアメリカ東海岸の北ニューハンプシャーのど田舎と首都ワシントンDC。前者は固体化学のゴードン会議、後者は後で述べよう。
梅雨明けにもかかわらずなぜか涼しい東京を後にしたのは7月22日の日曜日。シカゴ経由でボストンに飛び、さらにバスで2時間北西に移動してColby-Sawyer Collegeという小さな大学を目差す。長~い旅の後、到着したのはその日の午後6時を過ぎていた。ちなみに時差は13時間。会議は夕食後7時から始まり、終わったのは9時過ぎ。ひょっとすると人生で一番長い一日だったかもしれない。さすがに疲れ果ててバタンキュー。
ゴードン会議に参加するのはこれが2度目である。前回は2005年のイタリア(トスカーナにて)。毎年、ヨーロッパとアメリカで交互に行われてきたゴードン会議だが、ヨーロッパ版はお取り潰しになってしまったので、現在はアメリカで2年に一度開かれるのみとなった。今回はアメリカ版に初参加である。米国人を中心にした固体化学者の会議だがヨーロッパからの参加者も多く、日本からは私を含めて8人が参加した。オーソドックスな固体化学から熱電、ナノ構造、ソーラーセル、電池などのエネルギー関係の応用まで幅広いテーマのトークとポスターが行われた。発表をしないシニアな研究者も多く、活発な議論で盛り上がる。何人かの座長によるジョークの応酬にはあきれて感服した。ちなみにゴードン会議では未発表データが話されることを前提としてアブストラクトやプロシーディングなどの記録や写真撮影も禁となっている。長年参加している人も多く、とてもアットホームな雰囲気が漂っている。
会場のColby-Sawyer Collegeは学生が1,000人という田舎の小さな大学である。夏休みで学生がいなくなった期間を利用してこのような会議が行われている。泊まるのは質素に学生寮、食事はすべてカフェテリア。といっても日本のそれよりははるかにマシであり、まあ快適だ。ちなみに外に出ようにも行くところがなく、この缶詰スタイルがゴードン会議の基本だ。朝7時半の朝食から始まって午前中の講演、昼食の後、2-3時間のフリータイム、午後4時からのポスター(ビール付き)、夕食後に2時間のセッション、その後深夜まで続くビール&おしゃべりで締めくくられる。フリータイムが多いために知り合いを作るには良い機会である。
さて、ニューハンプシャーで私が連想するのは、ジョン・アーヴィングの小説Hotel New Hampshireである。恐らくこの辺りが舞台のはずだ。変な小説だがまだ読んでない人はどうぞ。何人かの米国人に聞いてみたが1人も知らなかった。日本では村上春樹の影響で有名なだけか。会議中の天気は涼しくて快適だった。1度だけ車で近くの湖に連れて行ってもらい泳いだが風が強くて震えていた。会議の終わりは雨となったが、暑い日本と比べると天国である。
最終日の夕食は恒例のロブスター大食い大会であった。通常のビュッフェにプラスして食べたいだけロブスターが出てくる。昨年は8個も食べた人が優勝したらしい。どうやって食べた数を審査するのかと思っていたら、夜のセッションが始まる前にカウンダウンがあって自己申告により最後まで立っていた人が優勝。今年は3匹が数名残ったが、4匹がいなくて盛り下がってしまった。ちなみに私は1/2匹だった。どうもザリガニの友達は苦手だ。
金曜の午後の便でワシントンに赴く。乗り継ぎのためもあるのだが、今回はカーネギー研究所にいる村松孝樹氏を訪ねた。彼は阪大の天谷研で超高圧をやった後、うちの研究室でポスドクをやり、その後阪大に戻ってさらにヒューストンに行き、1年前にカーネギーに移った。私のところでは当時見つかったβパイロクロア酸化物超伝導体の高圧実験をやってPRLにいい論文を書いてくれた。それももう7年前のことである。カーネギーはかつて地球科学の一大拠点であったが、今も高圧関係の研究が幅広く行われているようだ。村松氏は自前の技術を活かして特にガス圧下の電気抵抗測定に取り組んでいるらしい。カーネギーの雰囲気を気に入っているらしく実験に打ち込んでいるようなので、そのうちにきっといい成果が出るだろう。しかし日本を離れてすでに数年が経っているので、早くいいポジションを見つけて日本に戻れるように後押ししてあげたいと思っている(これが今回の話を書いている主な理由)。
もう1人、偶然お会いしたのは阪大を退職されてカーネギーに来ておられる山中先生である。お名前は存じ上げていたが、金曜の夕方ほぼ同じ時刻にワシントンのダラス空港に到着し初めてお目にかかった。先生は西海岸から私はボストンからである。研究所を案内して頂いて夕食もご一緒したが、大変愉しい一時となった。驚くことに日曜の成田便では通路を挟んでお隣に座っておられた。約2ヶ月の滞在の後の帰国とのこと。恐ろしい偶然である。
ワシントンは、涼しかったニューハンプシャーとは打って変って暑い。ホワイトハウスを横目にリンカーンの座っている記念堂(下の写真)を遠くに眺めながらモールというのを歩いてみたが、あまりに広過ぎて暑過ぎてヘロヘロになってしまった。建ち並ぶスミソニアンの巨大な博物館や美術館に一歩入ると今度はやたらと冷えている。ロブスターのごとく、すべてがデカイのがアメリカである。
最後に、ワシントンで今も実験に励んでいる村松氏にエール(と高圧実験用の試料も)を送って終わりにしよう。日本の皆さん、彼のことを忘れずにどなたかいい就職口をご存知でしたら是非とも声を掛けてあげて下さい。よろしくお願いします。
涼しいニューハンプシャーと暑いワシントン
2012年7月30日月曜日