新しいパイロクロア型酸化物における超伝導の発見

 当研究室の米澤茂樹君(博士課程1年(2003年))が新しいパイロクロア類似酸化物KOs2O6を合成し、10Kの超伝導を発見しました(論文へ)。ちなみにこの論文は、J. Phys.: Condensed Matter誌の「Top Papers 2003」に選ばれました。

パイロクロア酸化物はペロブスカイト酸化物と並んで遷移金属酸化物を代表する物質であり、その格子の特異性に起因するいくつかの面白い現象がここ数年報告されています。2001年の春、彼の先輩、花輪雅史君が最初のパイロクロア超伝導体Cd2Re2O7(超伝導転移温度Tcは1K)を発見し、その仕事を引き継いだ米澤君が今度は1桁高いTcを有する超伝導体の発見に至りました。めでたし!

 通常のパイロクロア酸化物はA2B2O6O’の一般式で表され、立方晶系の空間群Fd-3mに属し、A、B、O、O’原子はそれぞれ16d、16c、48f、8bサイトにあります。ここで遷移金属原子Bは6個の酸素原子Oに囲まれた八面体をなし、頂点を共有して三次元ネットワークを形成します(図参照)。B原子のみに着目すると、B原子の正四面体が頂点を共有しながら繋がった、いわゆるパイロクロア格子が現れます。一方、新しい酸化物AB2O6では、同一のパイロクロア格子を有するが、A原子がO’原子の代わりに8bサイトに入ると考えられています。このような構造はA原子が比較的大きな場合に安定となることが予想され、実際にRbNbWO6などにおいてこのタイプの結晶構造が報告されています。しかしながら、A原子が小さい時には、単に16dサイトに欠損が生じる場合があり、そこでもAB2O6組成の酸化物が存在することが知られており、これらは一般に欠損型パイロクロア酸化物と呼ばれています。よって、これら2つを区別するために、ここではA原子が8bサイトを占める酸化物をβ型パイロクロア酸化物と呼ぶことにします。
 β型パイロクロア酸化物KOs2O6では、Osの形式価数が5.5価であり、2.5個の5d電子を有します。この電子数は、すでに1Kの超伝導が発見されているパイロクロア酸化物(α型)Cd2Re2O7(5d2)と、225Kで金属-絶縁体転移を示すCd2Os2O7(5d3)の中間に対応します。これら三つの酸化物は基本的にパイロクロア格子上の遍歴電子系においてバンドフィリングを変えた系とみなすことができ、その結果としてこのようにドラマティックな物性変化を示すことから、その背後には非常に面白い物理が潜んでいるように思えます。

 特にKOs2O6の超伝導は、以下の実験事実よりunconventionalな可能性が高く興味深い。一つは、その上部臨界磁場が通常の超伝導に予想されるパウリリミットの2倍に達することです。2つめは、最近のμSRやNMR実験から、異方的なオーダーパラメーターやポイントノードの可能性が示唆されていることです。1年前に報告されたCoO2三角格子における超伝導とともに、三角格子を舞台とした新しい超伝導研究の今後の展開が大いに期待されます。
 今後の発展に乞うご期待。